後遺障害事例

頭部外傷  高次脳機能障害認定の3要件

「高次脳機能」とは、脳が外界からの情報を受けとり、処理し、これに応じた行動を発令するまでの一連のプロセスを指します。ものごとに注意を向け、過去の記憶(データー)と照合したり、初体験のできごとを学習・記憶すること、これらの認識に基づいて、一定の判断をし、行動を計画する、コンピューターとしての脳の高度な働きを言います。

 

交通事故で、頭部に外傷を受けたことにより、レントゲンやMRIの画像によって脳の物理的な損傷が残っていることを確認できる場合は、脳機能の障害は医学的に容易に説明がつきます。

 

しかし、頭部外傷後、意識障害に陥り、覚醒し、画像所見では回復したにもかかわらず、事故前と比べて、明らかに「まるで、人が変わってしまった」ような症状を呈するケースがあります。それが、「高次脳機能障害」です。

 

「まるで、人が変わってしまった」とは、「認知障害」と「人格変化」が生ずる症状のことです。

 

「認知障害」とは、記憶力・記銘力・集中力・逐行力の障害、判断力の低下、病である認識の欠落などです。具体的には、新しいことを学習すること、複数の仕事を同時に処理すること、計画してこれを実行すること、周囲の状況に応じた適切な行動をすること、危険を予測・察知することなどの各能力が低下し、困難となります。

 

「人格変化」とは、正常だったころと比べて、感情が変化し易い、不機嫌が続く、攻撃的で、暴言・暴力が多い、ひどく幼稚である、羞恥心が失われている、ひどく多弁(饒舌)で、自発性や活動力が低下し、病的な嫉妬やねたみ、被害妄想が顕著となる症状です。

 

たとえ、画像上、脳の損傷が回復したように見えても、外傷が原因で、これらの障害が生じている場合、その程度によって、後遺障害等級1ないし3級、5級、7級、9級が認定されます。

 

しかし、客観的な画像所見では回復していること、感情の起伏、記憶力などの認識能力の低下などは、年齢を増すとともに、多かれ少なかれ生じてくるものです。それゆえ、実際上、高次脳機能障害の判定は、非常に微妙で難しい判断となります。

 

自賠責保険では、高次脳機能障害につき、次の3つの判断基準を設けています。

 

①脳の受傷を裏付ける画像検査結果があること

②一定期間の意識障害が継続したこと

③一定の異常な傾向が生じていること

 

 

「①脳の受傷を裏付ける画像検査結果があること」

 

第1に、CTやMRIの経時的(時間経過に沿って記録した)画像によって、脳出血や脳挫傷痕が確認されることです。つまり、少なくとも受傷時に脳が外傷を受けていることは画像で確認できる必要があります。

 

第2に、脳出血や脳挫傷痕が確認できないときでも、少なくとも脳室(脳内にある空間)の拡大や脳全体の萎縮がCTやMRIの経時的な画像で確認できる必要があります。

 

これは、どのような理由でしょうか。

画像上、脳に異常が見当たらないにもかかわらず、高次脳機能障害を発症する原因となっていのが、「びまん性軸索損傷(じくさくそんしょう)」です。「びまん性」とは、広範囲に広がって、患部を特定できない症状のことであり、「軸索」とは、脳の神経細胞から出ている情報伝達の役割を担う突起のことです。つまり、平たく言えば、広範囲で脳神経細胞の伝達系が損傷されている状態と理解できます。

 

脳は、頭蓋骨の中で、髄液という液体に浮かんでいる状態です。事故の衝撃を受けると、脳は上下左右方向だけでなく、脳自体を回転させようとする物理的な力を受けてしまいます。この力は、脳全体を変形させてしまい、広範囲に軸索を傷つけるのです。これが、画像的には脳の損傷が回復しているように見えていながら、高次脳機能が障害される原因です。この、びまん性軸索損傷を生じると、脳室拡大や脳萎縮を生じるという特徴があり、少なくとも、これらが観察されることが要求されるのです。

 

結局、画像所見上、まったく何も観察できないのでは、高次脳機能障害とは認められないことになります。

 

 

「②一定期間の意識障害が継続したこと」

第1に、半昏睡から昏睡で、開眼・応答しない状態が6時間以上継続した場合です。高次脳機能障害は、意識消失を伴う頭部外傷後に起こりやすいことが特徴であり、受傷直後の意識障害が、およそ6時間以上継続するケースでは、永続的な高次脳機能障害が残ることが多いとされています。このため、6時間というのが、一応の目安とされます。6時間の意識障害であれば機械的に基準を満たすというわけではなく、あくまでも目安です。

 

この点、高次脳機能障害認定システム検討委員会の報告書(「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムについて」平成12年12月18日付)においては、6時間以上継続すると永続的な高次脳機能障害が残ることが多いとされる意識障害の程度について、「JCSが3桁」、「GCSが8点以下」が目安と報告しています。

 

では、「JCSが3桁」、「GCSが8点以下」とは何でしょうか。

これは、いずれも意識障害の重症度(深度)を分類する基準(尺度)です。

 

「JCS」とは、「Japan Coma Scale」の略で、頭部外傷の意識障害の評価法として、日本で最も普及している尺度です。

意識障害を、刺激に対する覚醒反応により3分類し、さらにそれを10種類に分類します。例えば、「刺激しても覚醒しない」かつ「痛刺激で手足を動かす、顔をしかめたりする」場合は、「JCS200」と表記します。「JCSが3桁」とは、この「JCS100」、「JCS200」、「JCS300」のことです。数字が大きいほど重度の症状です。

 

無題

「GSC」とは、「Glasgow Coma Scale」であり、世界でもっとも広く使われている意識障害の尺度です。開眼、運動反応、言語反応の3種類の反応を、さらに分類して、反応に応じた点数をつけ、それぞれを合計した点数で表現します。例えば、痛刺激で開眼(2点)+発語は見られるが会話は成立しない(3点)+痛刺激に対して手で払いのける(5点)=合計10点という具合です。点数が低いほど、重度の症状です。

 

無題

第2に、健忘症あるいは軽症意識障害が1周間程度継続した場合です。

「健忘症」とは、記憶障害です。また軽症意識障害とは、「JCS2桁」、又は「GCSが13点から14点」の症状とされています(前記「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムについて」)。このような場合も、高次脳機能障害を残すことがあるからです。

但し、高齢者の場合は、これらよりも短期間の意識障害であっても高次脳機能障害が残ることがあるとも指摘されています。

 

なお、健忘症については、外傷後健忘(「PTA」、posttraumatic amnesia)の持続期間について、下記の表が参考になります。1週間の健忘が、いかに深刻か理解できると思います。

 

無題

 

「③一定の異常な傾向が生じていること」

一定の異常な傾向とは、前述した認知障害(記憶、記銘力障害、判断力、集中力低下、遂行機能障害等)と人格変性(感情易変、不機嫌、攻撃性、暴言、暴力、羞恥心欠如、低下、病的嫉妬、被害妄想等)です。

 

 

さて、認知傷害と人格変性は、後遺障害の結果であり、意識傷害の事実と画像所見は、交通事故との因果関係を証する事実です。したがって、以上の3つの基準は、どれも重要です。ネットでは、意識障害の事実が最も重要であるなどと記載したニセ情報が流布されていますが、少しでも法律を知っている人間であれば、そのような誤解をすることはありません。

 

意識障害の記録、画像所見は、客観的な医療記録として資料となります。認知障害及び人格変性の症状は、医師及び家族等介護者の知見、報告が資料となります。

 

御家族にできることは、認知障害及び人格変性の症状の報告です。これは、事故前との比較ですから、医師には不可能です。症状の記録を詳細にとることが大切です。

 

また、被害者本人には、高次脳機能障害の自覚症状はないことが通常です。したがって、身近な家族が気づかないと、障害の存在自体がわからないことになります。この意味でも、頭部に傷害を受けた場合は、周囲の支援が不可欠と言えます。

 

頭部外傷を受けたケースで、退院後、どうも被害者におかしな言動があるなど、思い当たることがある場合には、後の後遺障害認定に備えて、十分な対応策を講ずる必要があります。その際は、交通事故の経験豊富な弁護士に相談されることをお勧め致します。

 

 

後遺障害の申請には医学的な知識やそれに基づいた立証が重要になってきますので後遺障害の申請をお考えの方は弁護士に相談ください。

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