胸郭出口症候群
1.胸郭出口症候群とは?
胸郭出口とは、斜角筋(前斜角筋と中斜角筋)と 肋鎖間隙(肋骨と第1肋骨の間)で囲まれた部分で、 神経の束や血管が通っているところです。 神経や血管が圧迫されたり引っ張られたりすること によって、上肢に冷感や疼痛の血流障害や、痺れ・ 知覚鈍麻、筋力低下という神経症状を発症します。
〔症状の分類〕
症状の分類としては、以下のものがあります。
a) 斜角筋症候群:前斜角筋や中斜角筋、また、頚部の筋肉の間で圧迫されるもの
b) 肋鎖症候群:鎖骨と第1肋骨の間で圧迫されるもの
c) 小胸筋症候群:小胸筋部分で圧迫されるもの
d) 頚肋症候群:頚椎にある余分な肋骨で圧迫されるもの(先天性の奇形)
この、a)~d)の一連の症候群をあわせて、胸郭出口症候群といいます。
2.どんな症状が出るか?
・頭痛、肩こり
・腕を挙げる動作で生じる上肢の痛み
・肩や腕、肩甲骨周囲の痛み
・しびれやピリピリした感覚障害
・手の握力低下、細かい動作がしにくいなどの運動麻痺
・倦怠感、血行障害
3.認定される後遺障害等級は?
10級10号:1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
14級9号:局部に神経症状を残すもの
事故によって斜角筋を傷つけることが原因で胸郭出口症候群の症状が現れることがあります
胸郭出口部分に存在する斜角筋、鎖骨下筋、小胸筋が、事故による受傷で断裂損傷した場合、血腫や瘢痕が形成され、結果として血管神経を圧迫することで症状が出てきます。
筋断裂の場合には、断裂部分の疼痛、腫れ、皮下出血、圧痛の症状が出るため、診断は比較的容易にできます。
しかし、これらの筋断裂が起こるのは、頚部に相当大きな衝撃が加えられたときと考えられるため、通常の追突事故によって筋断裂が生じるとは考えにくいです。
そこで、通常の交通事故では、頚椎捻挫の代表的な症状(頚部・肩~上肢・手指のだるさ、痺れ)という自覚症状はあるものの画像所見が得られない場合に、胸郭出口症候群を疑います。
しかし、受傷機転(いつ、どこで、どんなもので、どんなふうに受傷したか)の証明が難しい点が後遺障害等級を認定される上でもっとも頭を悩ますポイントでもあります。
胸郭出口症候群は、なで肩の女性や、重いものを持ち運ぶ仕事をしている方、俗に言うスマホ首等、骨格や日常の生活などによっても影響されるからです。
また、胸郭出口症候群は診断が難しく、頚椎から肩、上肢におよぶ症状を呈することから、頚椎疾患、肩疾患から上肢の疾患などとの識別が難しいといわれます。
そこで、後遺障害等級の認定を行う調査事務所の見解は、交通事故で胸郭出口症候群を発症することの証明がなされない、とし、胸郭出口症候群という病名での認定ではなく、頚椎捻挫という認定で「14級9号」とされることがほとんどです。
過去の例を見てみますと、第1肋骨の切除術を受けた後、肩関節の可動域に2分の1以上の制限を残している被害者に対し「12級13号」が認定された事例では、肩関節に器質的損傷を認めないという理由で「10級10号」が認定されませんでした。
現状では、胸郭出口症候群という病名での後遺障害認定はハードルが高いといえるかもしれません。
交通事故の後遺障害としては胸郭出口症候群の認定は難しいものの、裁判では「12級13号」を認定された事案があります。
2005年8月30日:名古屋地方裁判所・・・12級13号
2006年5月17日:名古屋高等裁判所・・・12級13号(上記判決を追認)
2007年12月18日:東京地方裁判所・・・12級13号
4.検査方法
a)レントゲン検査
第7ときには第6頚椎から外側に伸びる頚肋(※)がないかを調べます。
※ 頚肋(けいろく):第7頚椎の横突起が異常に発育して、肋骨のように頚部の側面に伸びてきたものです。
b)肋鎖間隙撮影(鎖骨軸写像)
鎖骨や第1肋骨の変形によってこの間隙が狭くなっていないかを調べます。
c)モーレーテスト(Morley Test)
患側(痛みやしびれが生じている側)の鎖骨の上にあるくぼみを指で押し、腕神経叢を圧迫する方法です。
⇒圧迫したとき、上肢や胸のあたりにしびれや痛みを生じたら陽性です。
d)アドソンテスト(Adson Test)
患側に顔を向けて、そのまま首を反らせ深呼吸をする方法です。
⇒鎖骨下静脈が圧迫され、手首のところの橈骨動脈の脈が弱くなるか触れなくなったら陽性です。
e)ライトテスト(Wright Test)
座位で両肩関節90度外転、90度外旋、肘90度曲げた状態をとらせる方法です。
⇒手首のあたりの橈骨動脈の脈が弱くなるか触れなくなり、手の血行がなくなり白くなったら陽性です。
f)ルーステスト(Roos Test)
ライトテストと同様に、肩関節90度外転、90度外旋、肘90度曲げた状態で、両手の指を3分間曲げ伸ばしを行う方法です。
⇒3分の間に手指のしびれ、前腕のだるさで継続できず、途中で腕を降ろした場合には陽性です。 ※ルーステスト(Roos Uest)は、胸郭出口症候群の判定にとって重要な検査の一つです。このテストで重症とみられる場合、手術も考える必要があります。
g)エデンテスト(Eden Test)
座位で両肩を後下方に引かせる方法です。
⇒手首のあたりの橈骨動脈の脈が弱くなるか触れなくなったら陽性です。
h)MRI
⇒第5頚椎と第6頚椎の間、第6頚椎と第7頚椎間の左右いずれかの神経根が圧迫されていたり狭くなっている画像所見が見られる場合、しびれ等の自覚症状が画像によって立証されることになります。
i)その他
ドップラー検査(血液の状態をみるもの)
サーモグラフィー検査での体表の温度や温度差の測定
筋電図検査
上記の検査を総合し、症状の似ている頚椎椎間板ヘルニア、頚椎症、肘部管症候群、 脊髄空洞症、腕神経叢腫瘍、脊髄腫瘍等の疾患を除外できれば、胸部出口症候群の可能性が高くなります。
〔診断基準~まとめ~〕
部出口症候群と診断される基準としては、
①頚部、肩、腕に神経や血管の圧迫症状が認められ、それが比較的長時間持続し反復すること
②アドゾンテスト、ライトテスト、エデンテストのいずれかが陽性であること
(ただし、これらの検査は補助的検査ともとれるので、陽性=即症状認定というわけではないので注意しましょう!)
③頚椎症等の疾患を除外できること
④MRI画像において、神経の圧迫や狭窄所見が認められること
5.治療方法
〔保存的両方〕
治療は、保存的療法が中心です。
上肢の症状を緩和する目的での体格や体質の改善を指導されます。
たとえば、症状を悪化させることとなる、上肢を挙げた位置での仕事や、重いものを持ち上げるなどの運動や労働を避けることが大切です。
また、リュックサックで重いものを担ぐことも避けたほうが良いでしょう。
長時間うつむきの姿勢をとることも避けてください。
〔筋力強化方法〕
症状が軽い場合には、上肢や付け根の肩甲帯を吊り上げている僧帽筋や肩甲挙筋の強化訓練を行うことが有効です。ウエイトトレーニングや水泳も奨励されています。
〔安静時〕
安静時には、肩を少しすくめたような肢位をとります。
〔装具の使用〕
肩甲帯が下がる姿勢によって症状が出ている場合には、肩甲帯を挙げる装具を用いることがあります。
〔投薬治療〕
投薬としては、消炎鎮痛剤、血流改善剤やビタミンB1の投与も行われます。
〔手術について〕
胸部出口症候群は、その症状のみで手術に発展することは少ないですが、痛みが強く我慢ができない場合や、頚肋がある場合には切除術が行われることがあります。
交通事故で胸郭出口症候群になった場合、自賠責の後遺障害等級認定請求をしても認められないケースが多いです。また、頸椎捻挫(むちうち)と間違われて見過ごされる可能性の高い症状です。
ただ、裁判をすれば後遺障害が認められて後遺障害慰謝料や逸失利益の支払いを受けられる可能性もあるので、あきらめる必要はありません。福岡を始めとして、九州、全国で交通事故に遭われてむちうちに似た症状を発症しておられる方は、一度アジア総合法律事務所の弁護士までご相談下さい。
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