後遺障害事例

脊髄の前角障害、前根障害(せきずいのぜんかくしょうがい、ぜんこんしょうがい)

1.脊髄の前角障害、前根障害とは

交通事故で脊髄を損傷すると「前角障害」や「前根障害」と診断されるケースがあります。
前角も前根も脊髄の一部ですので、これらの障害はいずれも脊髄損傷の1種です。
「頚椎症性筋萎縮症」という診断名がつけられるケースもあります。

 

        
          
                  脊髄の横断面

脊髄の中心には、蝶に似た形の「灰白質」という部分があり、その前部に前角(運動角)があります。
そして脊髄末梢神経には、2つの神経根が存在しています。それが前根と後根です。

前根は灰白質の前の部分に存在する運動神経根です。脳や脊髄から発せられた信号を筋肉に伝達する働きをしており、人が身体を動かすのに極めて重要です。
後根は灰白質の後部にある感覚神経根です。身体の各部分からの触覚や痛み、温感や姿勢などの情報を脊髄に伝える役割を果たしており、人が何かを感知するために重要な部分です。

2.信号が通る経路について

人の体内の神経を伝わる信号には、脳へ向かうものと脳から下りてくるものがあり、それぞれが通る経路も別々になっています。
信号が通る主な経路は、以下の3種類です。

信号が通る主な経路

① 外側脊髄視床路
 感覚神経根(後根)が受信した痛みや温度などの信号が通ります。脳へと向かう経路です。
② 脊髄後索
 感覚神経根(後根)が受信した腕や脚の位置(姿勢)を示す信号が通ります。脳へと向かう経路です。
③ 皮質脊髄路
脳から発せられた、筋肉を動かすための信号が通ります。脳から運動神経根(前根)へ、そこからさらに身体の各部分の筋肉へと伝わっていきます。

交通事故が原因で脊髄の前角障害や前根障害になるのは、正面衝突の事例など、前方向から強い衝撃を受けたケースで件数的には少数です。

3. 前角障害、前根障害の症状

 

3-1.主な症状

交通事故で前角障害や前根障害となった場合の症状は、「頚椎症性脊髄症」に似ています。具体的には、圧迫を受けた部位よりも下の手足に各種の障害が発生します。
たとえば手指の細かい運動ができなくなって、箸を持ちにくくなったり、字を書きづらくなったり、ボタンをはめにくくなったりすることが頻繁にあり、筋萎縮や筋力低下、しびれなどの症状が発生することもあります。これらの症状が出るのは右側か左側のうち、どちらか一方であることが比較的多数ですが、両側に障害が起こる事例もみられます。

 

3-2.頚椎症性脊髄症との違い

頸椎症性脊髄症と前角障害、前根障害には違いもあります。
まず、頸椎症成績瑞祥の場合には、脚に突っ張った感じが起こって歩きにくくなったり、階段を降りる際に足がガクガクしてしまったりする症状がありますが、前角障害や前根障害ではそういった症状は少ないです。
また、頸椎症性脊髄症では腕の筋萎縮や脱力感、腕脚や体幹の痺れを感じたり、膀胱直腸障害が発生したりすることがありますが、こういった症状も前角障害や前根障害の場合には少数です。
     

 

3-3.各部位の症状

前角障害、前根障害となった場合の各部位における症状をみていきましょう。
まずC5/6の損傷の場合、三角筋や上腕二頭筋、棘上筋、棘下筋、腕撓骨筋の部分に筋萎縮が認められることがあります。この場合、回外筋の筋力は低下しますが、回内筋の筋力は維持できるケースが多いです。
C7損傷では、上腕三頭筋の筋萎縮が認められ、「翼状肩甲」を併発する可能性もあります。この場合、回内筋の筋力が低下する例が多数です。

翼状肩甲とは
翼状肩甲とは、筋肉が麻痺することにより、上腕を挙げたときに肩甲骨が背中に浮き上がって腕の屈曲が困難になる症状です。浮き上がった肩甲骨の形が翼のような形をしているので、「翼状肩甲(骨)」と呼ばれます。この症状は、健康な人の肩甲骨の動きと比べるとわかりやすいです。肩関節が正常な人が上腕を90度以上挙げると、肩甲骨の内側にある前鋸筋や僧帽筋などの筋肉が動き、肩甲骨は胸の外側を滑るようにして前方に移動し、下端の部分が上方へと回転します。このことによって腕のスムーズな屈曲が可能となります。

ところが前鋸筋が麻痺すると、手を挙げてもうまく肩甲骨が回転せず、背中に内側縁が浮きあがるだけで、腕の屈曲が困難となるのです。これが翼状健康の症状です。

C8部を損傷すると、小手筋と第1背側骨間筋の萎縮、総指伸筋の筋力低下によって「垂れ指」になることがあります。垂れ指になると、手指のMP関節の背屈が不可能となり、小指外転筋の萎縮や尺側手根伸筋の筋力低下も認められます。

4.治療と立証方法

前角障害の場合、神経が損傷を受けると回復困難となる可能性が高いので、できるだけ早い段階で外科手術を実施して、症状の進行を食い止める必要があります。
立証については、針筋電図によって脱神経所見を得る方法が効果的です。頚椎MRI、ミエログラフィーやNCV、MEPなどの電気生理学検査が行われることもよくあります。

 

5.前角障害、前根障害における後遺障害のポイント

 

5-1.腱板損傷と誤診される可能性について

以前に弁護士が取り扱った事案において、医師から「右肩腱板損傷」と診断されていた交通事故被害者の方がおられました。
ただ、MRI撮影をしても、腱板損傷を確認できておらず、そのままでは後遺障害非該当になることが予想されました。
そこで専門医を受診したところ、腱板損傷ではなく「頚椎前角障害」であることが明らかになりました。
前角障害になると、C5/6の三角筋、上腕二頭筋、棘上筋、棘下筋、腕撓骨筋に筋萎縮が認められますが、以前の病院では、これらの筋萎縮が「腱板損傷」と判断されてしまったのです。

 

正しい診断名がついたので、その方は入院して手術(頚椎前方固定術)を受けました。
その後弁護士が後遺障害認定申請をしたところ、脊柱の変形障害によって11級7号、三角筋や上腕二頭筋、棘上筋の筋萎縮に伴う右肩関節の機能障害によって12級6号が認定され、併合10級の結果となりました。

5-2.頚椎の固定術について

前根障害で患者が痛みや不快感を訴えているケースでは、まずは保存的治療を行うことが通常です。それでも改善が得られない場合、外科手術による対応をしますが、頻度としては少数です。
これに対し、単なる痛みだけではなく、筋力低下や筋萎縮などの神経脱落症状がみられる場合には、早期に外科手術が選択されます。

 

5-3頸椎前角障害では手術が優先される

交通事故で頚椎前角障害と診断された場合、神経の損傷を防ぐために、早期に外科手術が行われることが多数です。手術方法としては、前方固定術や後方椎間孔拡大術、椎弓形成術が選択されるのが一般的です。
予後として、痛みの症状は比較的とれやすいですが、しびれが消えにくいです。また、C5/6や近位型は改善しやすいですが、C7/8遠位型の麻痺は改善しにくいと報告されています。

 

手術後4か月程度を経過した頃、症状固定して後遺障害等級認定請求を進めます。
立証方法としては、針筋電図によって棘上筋から小指外転筋までの脱神経所見を得ることが重要です。
交通事故における脊髄損傷の後遺障害認定では、日常生活の支障を立証するために「脊髄症状判定用」という書類が必要です。事前認定なら保険会社が直接医師に依頼しますが、被害者請求で後遺障害認定請求を行う場合には、被害者が書式を主治医に渡して作成を依頼する必要があります。

 

交通事故で、脊髄を損傷すると、運動の障害や感覚障害など、さまざまな症状が発生して日常生活にも大きな影響が及びます。前角障害や前根障害となったら、専門医にかかって適切な方法で後遺障害を立証する必要があります。被害者が自分で対応するよりも弁護士が対応した方が適切な認定を受けやすいので、福岡や九州をはじめとして全国で交通事故に遭われた被害者の方は、是非とも一度、お問い合わせ下さい。

 

当事務所には、年間約200件にのぼる交通事故・後遺障害のご相談が寄せられます。
多くは福岡県内の方ですが、県外からのご相談者もいらっしゃいます。

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